Description
本作は、北海道北部・オホーツク沿岸部での滞在とリサーチを起点に制作した三連作である。この取り組みは佐野和哉によって企画・実現された。斜里、網走、北見、遠軽の歴史施設や博物館を巡るなかで、アイヌをはじめとする北方民族の道具や装束に施された文様、木彫、民芸品などの造形に触れ、その土地に固有の「形」を制作の足がかりとして制作を企画した。
滞在中に着目したのは網走で広く見られる木彫人形「ニポポ」である。ニポポはアイヌ語に由来する名称をもちながら、現在よく知られる網走のニポポは、1950年代半ばに網走刑務所の刑務作業として成立した木工民芸品である。その造形は、北方民族の文様や木彫に見られる有機的な装飾性とは異なり、八角形を基本とする幾何学的で規格化された形態をもつ。それは、明らかにモダニズム彫刻を思わせるほど幾何学的で構成的なものとして見えた。
第一作《Prison Labour》は、このニポポの造形と生産工程に着目した作品である。ニポポを3DCGで再現する過程で、角柱から一定の手順で形を削り出していくことで、効率よくその形態を定義できることに気づいた。それは実際の木彫工程とも重なっており、造形プロセスそのものが伝達・伝承されやすいようにデザインされていることに気づいた。《Prison Labour》では、角柱からニポポが掘り出されていく工程をCGによって再構成し、自分自身もまた刑務作業のプロセスを擬似的に継承した。
第二作《Toy of Meme》では、《Prison Labour》で制作したニポポの3Dモデルを素材として、デフォーム、シミュレーションなどの操作を加えた。もともとニポポは「おもちゃ」として製品化されており、自分もまたそれを「おもちゃ」として扱った。その手つきは現代のネットミームのように、元来の文脈から対象を切り離し、複製し、変形し、ときに冒涜的に扱う行為にも捉えられる。アイヌ文化を参照しながら生まれたニポポが、刑務作業、観光土産、民芸品など複数の文脈を経て意味や様式を変えてきたように、文化的な形態の継承もまた、必ずしも純粋でも一方向的でもない。《Toy of Meme》は、その不安定な複製と変容の過程を、デジタルな「遊び」としてとらえようとした作品である。
三作目《Modernism Animism》は、前二作を構図的・意味的につなぐために制作した。北海道で見た北方民族の造形から私が感じ取ったのは、自然物の形態と幾何学的な秩序の共存、技巧的な手仕事、そしてそこに入り込むわずかな遊び心である。本作では、自然物を思わせる形態を幾何学的に構成し、一見相反するようなモダニズム的な操作とアニミズム的な気配を同時に表現することを試みた。合理的な構成と、大地や自然への畏れ、信仰、諦念といった感覚は、相反するようでいて、造形の過程においては切り離すことはできなかったはずであり、安易な語り口への抵抗となる。
北海道で発見した一つの小さな木彫人形を起点に、その成立過程をたどり、形を模倣し、操作し、別の造形へと展開することで、土地の文化をそのまま再現するのではなく、私自身が外部者としてそれをどのように受け取り、誤読し、変換していくのかを作品化した三連作である。
Workflow
- ニポポの木彫のプロセスをYouTube動画を参考にし3DCGのプロシージャルモデリングとして再現(【木彫】木を彫ってニポポ人形を作りました【ニポポ人形】 https://www.youtube.com/watch?v=vmuzjNkS-ss )。
- 複数の3Dシミュレーションをモデリングされたニポポに適用
- 3Dアセット(Megascansの鹿の頭骨)で3次元反復のスタディ
- モデリング、シミュレーション、レンダリング、コンポジット、全ての作業を Houdini で完結。
Credit
| Collaborator | 佐野和哉 |
Exhibition
| 2026.08 | the 𐠫𐠂𐠓 オブ 𐠜ウェアー | 旧前堀商店(小樽) |