作品について

媒体: ライブインスタレーション
制作年: 2016年
状況: ライブにて演奏
技術/ソフト: openFrameworks, Xcode, Ableton Live, Max for Liveなど
Source Code: https://github.com/nama-gatsuo/SOP

制作の動機

風景画を描く

私は学部時代は、美術史を専攻しており、C.D.フリードリヒの風景画論を卒論として書きました。彼の絵には、描きこまれている図像が多くはないけれど、象徴的なモチーフが必ず存在しています。寒色中心だけれど扇情的な色使い。茫漠、荒涼としているけれど「救い」がある風景。そうした「エモい」(または、ロマン主義的な)何かに惹かれて卒論のテーマとして選択したように思います。
コンピュータというツールを使えば様々な絵づくりが可能となった中で、彼の絵のように一見無機質に見えながらも漠然とした救いというか希望があり、静かな感動を喚起できるような作品を描いてみたいという思いがありました。

音と絵の明確な連動

また個人のテーマとして、どうしても取り扱いたいのが、音楽との連動です。
音楽演奏にあわせて映像を出す、というのはMTVによるミュージックビデオの隆盛から、様々なライブ演出、クラブシーンでのVJプレイと多様化していますが広くは実験映像の1つに位置づけられています。
昨今は、音をリアルタイムに取得してその場で映像を生成するアプリケーションによるAudio ReactiveとかAudio Visualizer といわれる映像表現が台頭してきています。ツール等がたくさんあり表現自体も飽和しているようにも思えますが、音を視覚化する表現自体の普遍的なおもしろさはあります。
そうした文脈にのっかって、リアルタイムの音によって世界が形作られる作品を作ってみたいと思うにいたりました。
古典的、回帰的ではりますが、周波数帯域によるオーディオリアクティブ系よりも、MIDIをトリガーにした描画を私は好みます。なぜなら、奏者の明確なアクションは周波数帯の強さではなく、楽器への物理的なアタックであり、MIDI入力は、そうした奏者の生っぽい情報をそのまま保存しているからです。

上記のアイディアから、リアルタイムに音楽演奏をトリガーにしてCG世界や実際の世界(照明装置など)に変化が加わるようなライブインスタレーションを創ろうと考えました。

制作の過程

音楽データの取得と制御

MIDIデータを楽器の音色にして音楽としてミックスするのにAbleton Liveを利用しました。また、Ableton Liveの場合、Max for LiveでMIDI effectを作成できます。今回は、Max for LiveによるMIDI effect内で、OSCデータを生成し、描画アプリケーションに送りました。この方法の場合、リアルタイムの演奏の場合でも、プリセットしたMIDIシーケンスの場合でも柔軟に楽器ごとの信号を絵にする(描画アプリケーションに送る)ことができます。
ちなみに、実際のライブで演奏した時は、Ableton LiveのSession Viewでプリセットしたシーンを雰囲気で切り替えながら、ベースの演奏をオーディオインターフェースからオーディオデータとしてリアルタイムで取り込みました。

使った図像、モチーフ

音を反応させるオブジェクトは、コンピュータアートの中である種定番の、木構造、メッシュ構造、対数螺旋、ジェネラティブな球体など、思いついたものを選択しました。コンピュータアートの初期からある、ワイヤーフレームだけのポリゴンやジェネラティブアートの質感が好きで、フォトリアルなモデルよりもそうした抽象度の高い図像を選択しました。(単にモデリングが苦手というのもあります。)
上部に浮かぶ球体は、Processingのサンプルに同梱されている、Marius Watz氏のコード (Sample > Demos > RotatingArcs) をoFに移植しつつVBO(Vertex Buffer Object)にしたり、音に反応させたりと改変を加えました。

描画アプリケーションはC++の汎用ライブラリであるopenFrameworksを使用しました。今回、頂点数が全体でかなりの量になり、描画ループ毎で愚直に全ての座標計算をすると負荷が高くなります。そのため、程度の効率化が望まれ、なるべく描画は、インスタンス生成時の初回のみ座標計算をしVBOに格納した上で、描画ループではの計算と更新は最小限に納める、ということを実践しました。(徹底はできてませんが…、結果的そこまで高負荷なアプリケーションにはならずに済みました。)
また絵作りのトライアンドエラーを繰り返せるように、なるべくオブジェクトをわけたクラス設計を心がけ、オブジェクトの位置移動等は容易にできるようにしました。

ソースはGitHub上で公開しています。

パフォーマンス風景

ライブ時の様子は動画後半でも紹介していますが、以下の様な絵になりました。写真はIAMASの同級生の Sola さんに撮っていただきました。

くりたくん @kurita_shingo によるエモい写真をupさせていただきます。 Saxの大和さん @dropcontrol が神々しい感じになっている…

Ayumu Nagamatsuさん(@ayumu_naga)が投稿した写真 –

くりたくんが素敵な写真をとってくれた 今日のパフォーマンス時の写真

Ayumu Nagamatsuさん(@ayumu_naga)が投稿した写真 –


リファレンス

芹沢 浩「3次元フラクタル紀行」

1990年台の書籍ですが、比較的わかりやすいCによって3Dフラクタルを描く考え方や実際のコードが掲載されています。図形描画のアイディアや技術的な解決方法の多くをこの本から参考にさせていただきました。非常にわかりやすい隠れた名著です。

Marius Watz “RotatingArcs”

Processingに同梱されているSampleの中の美しいデモです。(Sample > Demos > RotatingArcs に入っています。) 色やパラメータを変えて実行してみると目の保養になります。

C.D.フリードリヒの作品群

あまり意識してにオマージュしようとしたわけではないのですが、結果的に 氷海 や 海辺の僧侶 といった作品に憧憬があらわれているように言えると思います。偉大な先人の作品に安易に言及するのははばかられますが、好きな作家であり理想の風景画家のように思います。