日本を離れてはやくも一ヶ月経ったので、ここまでの所感をまとめてみようと思います。現在自分は、IAMASの交換留学のプログラムを使ってリンツ工芸大( Kunstuniversität Linz )のInterface Culture というコースに参加しています。本記事ではこの Interface Culture について現時点までの体験をまとめたいと思います。

Interface Culture, Kunstuniversität Linz

学年20人弱が2学年2セメスターのMasterプログラムで、教員若干名により運営されています。生徒は、

と幅広くいます。EU国籍であれば学費が無料という奨学制度と関係しているように思いますが、単にDiploma / Bachelor 卒だけでなく、職業従事を経て来た方も多く、年齢のレンジも広いです。基本的には Master の学位プログラムですが、PhD過程の方もいたり、研究員としている方 もいらっしゃいます。

なんとなくの生徒の制作の傾向としては、サーキットベンディング + 生成音楽 を手法とする方が多いのと、やはり社会批評のコンテクストを少なからず持ちこむ方がほとんどです。技術的な方面で新規性を論じる人はいないけれど、実現していることはけしてプリミティブでなく、難しい実装をポエティック/シニカルなアウトプットにうまくまとめおり、彼らのポートフォリオにはとても驚かされます。アートだけでなくHCI領域、展示企画などもコースの守備範囲としているようですが、やはりほぼ皆アート制作を中心に活動しています。

設立の中心である Christa Sommerer & Laurent Mignonneau の国際的なつながりによるところが大きいのか、中東やアジアからの学生が応募してくるプログラムであるというのはとても印象深いことです。日本からは毎期IAMASから人が送り込まれますが、実際の生徒はいないようです。ただKunstuniの別学科で日本人女性がいらっしゃいました。(立ち話しただけで学科は不明…)

IAMAS exchange program

所定の期間、交換留学生としてInterface Cultureのプログラムに参加できるのに加え、IAMAS(岐阜県)が約11万円の助成金と住居の提供をしてくれます。とはいえ、助成金はほぼ航空券で消え、制作費、食費、周遊や施設見学にかかる費用は全て個人負担となります。研究のお題設定や決められた制作をするというような目的を持つ必要はなく、授業を好きなだけ受け、好きなだけ欧州を回ってレポートをまとめるのみというような感じです。住居については、Kunstuniへ徒歩数分、街の中央広場に面しているので立地は便利です。(日当たりや水回りなどの不満はなきにしもあらずですが)

Interface Cultureで自分が割り当てられたスペースは、客員研究員がいる部屋で、イタリア人の研究員でPhD過程の Allesio さん、スペイン出身の Verbara & Mar 夫妻(Master課程とPhD課程)が同じ部屋にいらっしゃいます。毎日、Verbara と Mar のお子様のNoraが幼稚園帰りに研究室にやってきてかなり和みます。(今も隣で爆睡している。)AllessioもVerbara & Mar も IAMASに来たことあるとのことで、共通の話題があって良かったです。というか、レジデンスやリサーチプログラムなどを活用して世界をかなり移動しているようです。子育てしながらアーティスト/リサーチャーとして夫婦でやっているというのは素敵なことだとしみじみ思いますが、これも欧州の文化風土や奨学制度による後押しが大きいように思います。

授業

授業はすべて英語、日常会話も基本英語です。メディア・アートの黎明期から活躍する Christa Sommerer & Laurent Mignonneau (IAMASでも教鞭をとっていた。ICCでも展示多数。)が中心となり、国際色豊かな講師陣(リンツ工芸大の教員に加え、Ars Electronicaの研究員や、Interface Culture所属のアーティスト、研究員含む)が授業を行っています。また、今年からは日本から 藤幡正樹 先生が客員教授として授業を持っていることも大きいです。
自分が参加した/している授業を列挙するとこんな感じです。

自分は映像や音楽関連のプログラミング系、アートヒストリー系座学 みたいなのを狙って出席しましたが、出てない授業でもモバイルインタラクション、センサーハック、デバイスハックなどハードウェア系の授業も多いです。短期集中のものや隔週開催のものなど様々で、かなりの数の授業が行われており、全部出ると一週間がまるまる埋まり死にます。基本的には修士1年目の学生が授業に出席し、2年や研究生は、ふらっと現れるみたいな感じです。

いわゆるメディアアートを中心に制作系WS、座学とかなり充実したカリキュラムに感じます。授業の質は高く、生徒もかなり意識が高く見えます。年齢や国籍のレンジがある中で学習をするというのはデフォルトで緊張感があります。

授業以外のイベント

授業以外にもゲストレクチャーなどのイベントも多く、来てからこれまでも美術批評家の Dominico Quaranta , アーティストグループの Quadrature , アーティストのVictor Mazon がレクチャー、ワークショップの開催がありました。自分が来る少し前には、田所淳先生もレクチャーしにいらしていたとのこと。

リンツには Ars Electronica centerLENTOS museum をはじめ文化施設が多くアート関連イベントが非常に充実しています。少し前には Film Festival が開催されていました。また、毎年9月のArs Electronica Festivalに関連して、Interface Cultureでも企画展示を行っています。(2017年の展示に自分もノリでプロポーザルを出してしまった…。この時の教授陣への発表は思い出深いのでまた別途書きたいと思います。通るかはわかりません。)

 

次回は、アート事情の日本との差異、リンツ周辺のアートや文化事情、実際の生活面(食とか語学におけるツラミなど)、リンツの前に訪れたセルビアとResonate 2017について、順番に書いていきたいと思います。