作品について

媒体: PCアプリケーション
制作年: 2018年
技術/ソフト: openFrameworks
Source Code: https://github.com/nama-gatsuo/SequenceEditor

openFrameworksで制作されたシーケンサーインターフェースである。本アプリケーションは、最大16分音符4小節分で、チャンネル別にMIDIを生成し、同一マシン内のDAW等が発音するためのトリガーとなる。同時に、編集/生成したシーケンスに対応したCGイメージを描画する。シーケンサーには、16チャンネルが用意され、独立した色相に対応づけが可能である。上の動画では、紫:ドラム/パーカッション、青:ベース、赤:鍵盤、橙:マリンバ、緑:パッドなど装飾音のような分類になっている。各チャンネルには、4つの「レイヤー」がある。つまり、一つの楽器に4つの異なるシーケンスを定義し、編集やオンオフが可能となっている。このレイヤーは彩度差によって視覚的に識別される。

それぞれのチャンネルの4番目のレイヤー(もっとも淡い色で表現されるレイヤー)は、ランダムにシーケンスを生成する機能が備わっている。ランダマイズを実行してループさせたり、逐次ランダマイズし異なるシーケンスを紡ぐことができる。人間の編集をサポートするために使われることを念頭としているが、それ単体でも単純なチャンス・オペレーションの再現として提示可能である。編集/生成する対象の小節やオクターブ、その音階はGUIで制御可能になっている。

参照

ヴィジュアルアートとしての「時間芸術の記譜」

視覚芸術と音楽は互いにインスピレーションを交換しながら、お互いをモチーフにしたいたということは歴史上、様々な作家の作品によって例証されている。例えば、「前衛」の時分のW. KandinskyやP. Kleeが音楽から霊感を得て絵画連作を制作し、自らの絵画理論の中でも色彩や形体の調和について音楽的な用語を用いて説明していることは象徴的に思える。”Visual Music”とは、イギリスの画家/批評家のRodger FryがKandinskyの絵画を評する際に用いた言葉であるが、こうした音楽と視覚芸術の互いの参照関係だけでなく、映像や舞台芸術、インスタレーションにおいては、当然のように互いが補完しあい一つのナラティブとなった。VisualとMusicが協業する領域は現代においても、音楽に関わるビジュアルデザインに見受けられ、ミュージックビデオやクラブにおいてDJとまさにVisual-Musicとして対置されるVJなど、興味深い場/媒体が作家たちに提供されているし、追求されるパフォーマンスは多岐に渡る。

Visual Musicという領域はその曖昧な守備範囲から察するに膨大に作例を含むことができるが、アヴァンギャルドの作曲家たちのスコアはその中でも興味深い例として思い浮かぶ。なぜならば、ヴィジュアルアートの構成要素としての色や点・線・面などが、音楽の構成要素と直接的に関連付けられ、複数人に共通した理解が可能なように共有されるからだ。単なる霊感にもとづくメタファとしての引用ではなく、明確な機能があるという点では機能美を備えたデザインでもある。こうした表現の背景にはあるのは、五線譜のみで表現できる時間芸術の限界に音楽家たちが気づいたこと、かつ古典的方式の超克が通底した時代的な(つまり政治的な)テーマであったことだ。具体的な例を列挙すればキリがないが、2人だけその顕著な例として紹介する。

12音階を細分化させた微分音を用いて作曲を行ったIvan Wyschnegradskyの記譜体系は、12音階が色相として表され、微分音はグラデーションとして整合のとれた表現が可能であった。また、時間軸は行のスタイルではなく円として表現されたために、楽曲がひとつのビジュアルパターンとして提示可能であった。

シンセサイザー登場以降の音楽家でKarlheinz Stockhausenに師事したCornelius Cardewは自身のグラフィックデザインのスキルを作曲にも発揮させた。”Treastise”の譜面は、初見ではスコアというよりはドローイングとして捉える鑑賞者の方が多いのではと思わせる。奏者にとって統一的な解釈は不可能であり、もはや楽譜として機能しなくなってしまっている。しかし絵画のような自由な解釈の可能性が逆説的な狙いであろうし、副次的に音楽をモチーフとしたグラフィックデザインの審美的可能性も立ち現れる。このような一種の作曲家のジョークのような譜面を用いた遊びは、手遊びとしても優れたビジュアル・アートとしてもよく発見できる。

リアルタイムメディアのインターフェース

コンピュータを用いれば楽器を「編集しながら演奏する」ことが当たり前のように可能になり、楽譜の意味合いや見え方も変わってくる。おそらく、同時代に作曲に携わる人は楽譜よりも音楽ソフトのインターフェースをより楽譜らしい作曲ツールとしているだろう。そこでは音列はMIDIで表現されることが多い。MIDIインターフェースは今なお鍵盤のメタファが主流であるが、グリッドで構成された入力インターフェースも同じくらいよく使われている。また、プログラムを媒介すれば、様々な場面でのトリガーを発することがきでうるので、リアルタイムメディアのインターフェースは何でも音楽インターフェース、楽譜として成立可能になってくる。

グリッドの表現は、プレイアブルな音楽インタフェースとしてよく見られる。Googleの2017年6月22日のDoodle “Oskar Fischinger’s 117th birthday”Chrome Music Lab、ヤマハ株式会社と岩井俊雄によるTENORI-ONは、その優れた例である。直感的に操作でき、かつ音楽を定義する操作が、文字通り「絵を描くように」可能なのである。音階と時間しか一般的に軸をとりようが無いのが課題ではあるが、音楽の記譜と絵画のようなビジュアル表現を、直感的にかつ機能的に結びつけたことは興味深いことに思える。

制作の過程

シーケンサーというインターフェースを用いた制作は以前より進めていた。Interface Reality(2017年)は、3次元グリッドのシーケンサーインターフェースに直接没入して音楽とビジュアルを操作するというものであったので、この作品とも非常に似通う点がある。また、Cメジャー・スケールをランダムに選び取るという基本コンセプトにし、その範囲や頻度をパラメトリックに調整する、Parameteric Musicという小品も過去パフォーマンスで披露している。

Parametric music: It’s a sequencer in which a player can control amount of notes of each instrument and replace them in every bar. Random but comfortable somehow. #openFrameworks #creativecoding #generativeart

A post shared by Ayumu Nagamatsu (@ayumu_naga) on

本作では上記の技術的資産を利活用しながら、openFrameworksで新たにGUIを制作し、チャンネル選択をしてシーケンスを編集していくという操作系を開発した。また、一つのチャンネルに複数レイヤーをもたせるというコンセプトや、ランダマイズでの和音選択の機能を新たに追加している。

WIP Software to create sequence of notes intuitively. Can create/edit/manipulate “layers” of each instruments. Music has also layer system that can be told with visual metaphors. #openframeworks #creativecoding

A post shared by Ayumu Nagamatsu (@ayumu_naga) on

本作においては、ビジュアルが過度に音に反応して明滅することは意図的に避け、あくまで、音のシーケンス、記譜の一形体としての機能的提示に留めた。クラブでのパフォーマンスを念頭に制作したため、オペレーションがしやすいよう配慮した結果、ビジュアルとしてのシンプルさや調和は削がれてしまった嫌いがある。本作においては、UIやランダマイズの機能が未熟で、パフォーマンスを成立させるための機能課題もまだまだあるために、今後も同種の制作を続けていこうと考えている。